こないだMacbookを購入したら、Apple TV+っていうサブスクリプションサービスを1年間無料で利用できる特典がついていて、「いや、Apple TV+って何よ、聞いたことないよ」とか思いつつもラインナップを見てみたら、ピンポイントで琴線に触れる作品が!
アメリカの、ドラマやニュース、リアリティショー、トークショーなどのテレビ番組において、LGBTQがこれまでどのように表象されてきたか、当事者たちはそれらにどう触れ、感じ、そしてメディアとして利用してきたか。そしていまどんな課題があるのか。
実際の番組の映像を流しつつ、その出演者や製作者、それを見ていたひとのインタビューが適宜挟まれていくという構成になっています。約60分×5話。
実物に触れることの意義
アメリカのLGBTQの歴史といえば、以前ブログにも書いた、『LGBTヒストリーブック』がとても勉強になりました。
でも、例えば、「エレン・デジェネレスというレズビアンの俳優が、『Ellen』というドラマでカミングアウトして、それを多くの人が目撃した。そしてバッシングを浴びた」というようなことを、文章として読むのと、実際にそのドラマの映像を見たりエレン本人や関係者の証言を聞いたりバッシングが書かれた雑誌の表紙を画像として見たりするのとではリアリティがぜんぜん違うし、それが体験として記憶に残る。
実物に触れる、という体験の意義をすごく感じました。それは例えば、博物館や美術館で現物を見るということの意義にも通ずるところがあるでしょう。
もちろん先の『LGBTヒストリーブック』が劣っているとか、内容が不十分だとか言いたいわけではありません。どちらもそのメディアの特性を活かして、目的に合った内容になっており、とても勉強になると思っています。
いろいろな切り口がある中で、「テレビ」という切り口でLGBTQの歴史を見るうえでは、このように映像作品としてつくられることに意味があったんだろうと思います。
LGBTQが笑いのネタとして消費されていた時代。そこから脇役として配されるようになったり、リアリティショーにLGBTQの当事者が出るようになったり。ハーヴェイ・ミルクやACT UPがメディアを利用したり。当事者がメディアを通してカミングアウトするようになったり。改善されてきたとはいえ、ゲイの表象がやたらと多く、レズビアンやバイセクシュアル、トランスジェンダーの表象は少なかったり。たくさんの問題提起があり、かなり充実している作品ではないでしょうか。
LGBTQを演じるノンケ問題
また作品中では、LGBTQのキャラクターをノンケ(非LGBTQ)が演じることの問題も議論になっていました。
この問題については、LGBTQの雇用が奪われているとか、リアリティが失われるとか、いろいろ意見がありますよね。実際に批判を受けてトランスジェンダーの役を降板したということもありました。
「テレビが見たLGBTQ」第5話では、この問題について、特にトランスジェンダーのキャラクターをシスジェンダーが演じることの問題について、次のように問題提起されていました。
「(引用者注:トランス女性の女性用トイレの利用を認めることで、シス男性がトランス女性を装って女性用トイレに侵入し、性犯罪が行われてしまうのではないかという懸念について)まるでトランスの人々が女性用トイレに侵入して、性犯罪を起こすために女装しているような言い方だった。それは歴史的に見てシス男性がトランス女性を演じてきたことにも原因がある」
なるほど、と思いました。それはたしかにそうかもしれない。日本でもトランスジェンダーのキャラクターが出てくる作品はいくつかありますが、いずれもシス男性が演じています。その中には作品として評価を受けているものもありますが、構造的な問題として、シス男性が演じてしまっていいのかということは考えなければなりません。
ここ数年、主にTwitter上で、トランス女性の女性トイレの利用について様々な意見が飛び交いました。トランス女性を排除するような言説も多々見られ、辟易としてしまいました。このような問題と、トランスジェンダーのキャラクターをシスジェンダーが演じるということの問題に因果関係があるとすれば、なおさらしっかり考えなければなりません。
具体的な議論は別の機会におこないたいと思いますが、この作品を見ることを通して、より問題意識を持つことができました。
おわりに
ネットで検索してみると、あまり見ているひとは多くないみたいですが、すごくいい作品なのでたくさんのひとに見てもらいたいと思い、この記事を書きました。
Apple TV+は1週間無料体験ができるみたいです。
有名なドラマも取り上げられるので(「Glee」とか「Lの世界」とか「グレイズ・アナトミー」とか「トランスペアレント」とかとか)、ドラマ好きにはぜひおすすめしたい!