にげにげ日記

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(元)不登校ゲイの思索

ZINEの電子化についての雑多なメモ【追記あり】

雑誌の束の側面

 

文学フリマ(以下、文フリ)がこれだけ盛況なのに対して、文フリで出品されているようなZINE、同人誌、文芸誌などの電子化ってまだまだ進んでいないよなあと考えたりしている。小説『ハンチバック』で芥川賞を獲った市川沙央さんが問題提起したように、書籍全体として電子化が遅れているようなので、出版社にはもっと頑張ってほしいと思うのだが、その一方で、個人や小規模のサークルなどが制作しているZINE、同人誌、文芸誌なども電子化を進められたらいいなあと思う。

 

[……]『ハンチバック』を書くきっかけは、通っていた通信課程大学での卒論リサーチです。障害者や差別の歴史を調べていて、いらだちを感じることが多々ありました。

 とくに、日本の読書バリアフリー環境の遅れは目につきました。障害者の読書を想定せず、電子化されていないものが多い。重度障害者だってもちろん本を読むということに気づいてもらうために、いろんなものを書く重度障害者の主人公・釈華を設定し、自分を投影させました。

 

bunshun.jp

 

個人や小規模のサークルなどが制作しているZINEや同人誌、文芸誌などの電子化が進んでいない理由はいくつか挙げられそうだけれど、そのひとつとして、ハウツーが広く共有されていない点があるのではないかと思う。PDF形式がいいのか、EPUB形式がいいのか、それともMarkdown記述式がいいのか。それぞれどのソフトを使って作るのがいいのか。代替テキストはどのように書くのがいいのか。

 

テキスト主体のものだったらシンプルに考えて電子化できそうだけれど、ZINEは形式が自由なものも多く(そこも魅力のひとつですよね)、写真を切り貼りしたコラージュや、筆圧や筆致で感情を表現した手書きの作品などを視覚障害のあるひとに読んでもらうためにはどうすればいいだろうかと悩むひとも少なくないはず。視覚的に表現されたものをテキストに置き換える難しさや、それでも代替テキストを設定していくことの必要性についても考えていく必要がある。

 

この記事では、ZINEや同人誌、文芸誌など個人やサークルで制作された書籍の電子化について調べたり試したりしてみたことをメモとして残してみる。そのうちもっとしっかり整理した記事が出せたらいいのだけれど、たぶんそれなりの時間が必要になると思うので、これを読んだひとで余力のあるひとやこの分野について詳しいひとがいたら、ぜひぜひ取り組んでほしい。

 

以下、メモ。

 

 

Q.どんなデータを作ればいいの?

→PDFファイル、EPUBファイル、Markdown記法で書いたファイルなどが一般的みたい。さまざまなニーズがあることを考えると、それぞれの形式のデータをすべて準備できることが理想的だが、個人や小規模のサークルが制作することを想定すると、とりあえずできそうなところから着手していくのがよいと思う。

 

Q.アクセシブルなPDFとは?

→タグ付けによって、内容の読み上げ順序の指定や画像・数式に代替テキストが設定されているPDFファイル。タグ付けを行うには、AdobeIndesignAdobe AcrobatMicrosoftのWordなどのソフトを使うとよいみたい。固定レイアウトでデータを作れるので、デザインやレイアウトに凝った書籍はこちらのやり方でデータを作ることになりそう。

 

※参考:Indesignを使ったPDFのタグ付けの例
タグ付きPDFの作り方を検索 - design my style
https://ten-key2.com/design/creating_tagged_pdf/

 

※参考:Adobe Acrobatを使ったPDFのタグ付けの例
PDFのアクセシビリティ対応:入門編 | アクセシビリティBlog | ミツエーリンクス
https://www.mitsue.co.jp/knowledge/blog/a11y/201912/17_0000.html

 

メモ:上記のソフトいずれも持っていないので、タグ付きPDFを試しに作ってみることができなかった。使用感を知りたい。また、ZINEなどの自由な形式で作られた書籍をタグ付きPDFにする際、読み上げ順序の指定が難しい場合もあるのではないかと思うので、その点をどう考えればいいかしら。また、設定した代替テキストが長文になってしまうと、一部だけを読み上げたり途中から読み上げたりということができないようなので注意。場合によっては、どうにかしてテキストと画像だけを抽出してEPUBファイルを作成するほうがアクセシブルになるかも。

 

Q.アクセシブルなEPUBとは?

→タイトルや見出しの設定、目次の挿入、画像・数式に代替テキストの設定がなされているEPUBファイル。作り方はいろいろあって、Googleドキュメントで作るのが一番楽かも(OSに限定せず使えるし)。HTMLやCSSの知識が多少あれば、いちから作ることもできるみたい。PDFが固定レイアウトなのに対して、EPUBはリフロー版(利用者が使う端末のサイズや設定によって、文字の大きさやレイアウトを流動的に表示させられる)が作れるので、弱視色弱のひとはこっちのが使いやすそう。

 

※参考:いちからEPUB形式の電子書籍を作った例
・アクセシブルな電子書籍 (リフロー型 EPUB) の作りかた | Accessible & Usable
https://accessible-usable.net/2023/06/entry_230629.html


・自力でいちからEPUB形式の電子書籍を作ってみる! HTML/CSSの知識があれば十分!?|『人文×社会』の中の人
https://note.com/jinbunxshakai/n/nc273198954d6

 

メモ:「Googleドキュメントで作るのが一番楽かも」と書いたが、実際にGoogleドキュメントを使ってアクセシブルなEPUBを作る方法が書かれたサイトは見つからなかった。それでも調べながら自分でやってみたところ、意外と簡単にEPUBファイルを作成することができた。テキスト主体のZINEや同人誌、文芸誌はぜひまずEPUBで作ってほしい。PDFのほうにも書いたが、画像の代替テキストが長文になると使いづらくなるので、例えば画用紙に手書きで書いたものをスキャンした原稿(画像データ)などはできるだけテキストデータに置き換えていくのがアクセシブルじゃないかと思う。

 

Q.アクセシブルなMarkdown記法とは?

→まだちゃんと調べられていないが、文書構造を示すHTMLを簡略化したものらしいので、読み上げ順序は問題ないはず。画像に代替テキストを設定するのを忘れずに。テキスト主体のZINEや同人誌、文芸誌は向いてそうだが、デザインやレイアウトが凝っているものは向いてなさそう。

 

とりあえず、以上。

 

今後も情報収集・試行錯誤したい。ご意見やご指摘、情報提供などあればぜひコメントください。また、ZINEの電子化について気になる点や疑問などあればコメントに書いてもらえると、今後の情報収集・試行錯誤に活かしていきたいです。

 

追記:いただいたご意見について

この記事を公開してSNSでシェアしたところ、いろんなご意見をいただきましたので、それに対してぼくの考えを書いてみた。いくつかのご意見については、実際に電子書籍を利用する障害者に意見を求めたり、アクセシビリティについて書いてある書籍や記事をもっと読んだりして調査する必要がありそう。

 

ZINEの手作り感が好きなので、紙媒体がいい。

紙で印刷・発行するのをやめろ、とは言っていない。紙で印刷・発行しつつ電子データでも販売したり、紙で購入したひとのみアクセスできるテキストデータや音声データを作成したりと、やり方はいろいろあるはず(どのようなかたちでの電子化、販売/頒布が障害者にとってアクセスしやすいのか、という点については要調査

 

小部数で発行して、小規模に販売/頒布するからこそできる表現があるんだけれど。

どんなひとでも読めるかたちで公開しろ、とは言っていない。紙で購入したひとのみアクセスできるテキストデータや音声データを作成して、URLやQRコードをZINEの奥付のあたりに記載する、というやり方でアクセシビリティの確保に取り組んでいるひとは既にいる。

 

地方に住んでいるひとや貧しいひとのアクセシビリティについても考えるべきで、そうするとブログやnoteで無料公開するのがいいのではないか。

それも大事な話だけれど、さまざまな論点をひとまとめにして拙速に議論を進めるのはよくない。ここでは障害者がアクセスできるZINEの電子データの作り方について話している。

 

そもそも電子書籍は売れないよ。

売れる/売れないの話はしていない。そもそも利益が出るほどたくさん売れる見込みがあるのならば、出版社を通して出版することを検討したい。利益やニーズの多寡は一旦脇に置いて、自分の好きなもの・大事だと思うことを書いて発行するのがZINEの特徴じゃないだろうか。とはいえ、時間や労力をかけて調べて電子化したのに売れないとなると、徒労感が溜まって「もうやめた!」となってしまうかもしれないので、そういう意味でもハウツーを参照しやすいかたちでまとめられているといいなと思う。また、アクセシブルな電子書籍がもっと普及すれば、そこにアクセスしようと思う障害者も増えるのではないかとも思う要調査

 

自分が作ったZINEなんて電子化するほどの価値はない。

価値があるかどうかは読み手が決めるものなので、どんなZINEでもぜひ電子化してほしい。