にげにげ日記

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(元)不登校ゲイの思索

『LGBTヒストリーブック日本運動史編(仮)』への疑問と懸念【備忘録的メモ】

 

先日、クラウドファンディング「書籍『LGBTヒストリーブック日本運動史編(仮)』を制作発行したい!」が目標金額を達成していました。書籍の概要や制作発行の背景については、下記リンクをご参照ください。

 

greenfunding.jp

 

このクラファンが開始された頃から、TwitterなどのSNS上で疑問や懸念を表明したり、友人たちと話題にしたりしていたのですが、特にそれらの疑問や懸念が解消されることがないまま終了したなあ、という印象です。この記事では、ひとまずぼくが抱いている疑問点・懸念点をいくつか挙げて、備忘録的にまとめておきたいと思います。

 

今後、書籍を制作していく過程で、それらの疑問・懸念が解消される可能性はもちろんあるでしょう。そのときは、「あら、杞憂だったね」と笑ってやってください。というか、「お前みたいな若造の考えてることなんてとっくに議論し尽しているんだよ、バーカ」みたいな感じで制作が進み、完成してくれたらいいなあ……。

 

さて、いろいろな疑問・懸念があるかと思いますが、とりあえず以下に3点ほど挙げてみたいと思います。

 

 

疑問・懸念①どうして編著者がシスゲイ2人なのか?

クラファン開始時に、最初に思ったことです。お二人(山縣真矢さんと後藤純一さん)ともLGBTQの社会運動に長く携われている方だというのは分かりますし、お二人のこれまでのご経験やお考えなどについて知りたい気持ちはありますが、それにしても『LGBTヒストリーブック』の編著者がシスジェンダーのゲイ2人というのは、偏りすぎじゃないでしょうか*1

 

編著者という特権的なポジションにいる方のSOGIEや社会的な立場性が偏っていると、内容も偏ってしまうのではないかという懸念があります。実際、編著者のお一人である後藤さんもそのような懸念・疑問が頭によぎったようで、以下のように書かれています。

 

山縣さんからお声がけいただいた際、私なんかよりもレズビアントランスジェンダーの方のほうがよいのでは…という逡巡もあったのですが、25年間ライターとして生きてこられた自分がこのようなかたちでLGBTQコミュニティに貢献し、恩返しできるのであれば本望だとの思いから、お引き受けすることにしました。

 

greenfunding.jp

 

その後、クラファン終了の直前になって、山賀沙耶さんという、セクシュアルマイノリティ女性向けに活動している「パフスクール」のスタッフで、フリーランスで編集ライターもされている方が制作に関わられることが発表されました。

 

この書籍の企画については、クラウドファンディングが立ち上がる前に、山縣さんから「協力してほしい」という旨をちらっとお聞きしていました。
その詳細をクラウドファンディングのページで拝見したときにまず思ったのは、「“LGBT”のヒストリーブックを作るのに、ゲイ男性2人が編著者で大丈夫なのだろうか?」ということです。

 

greenfunding.jp

 

うん……。やっぱりそこ、気になりますよね。初歩の初歩的な疑問ですよね。山賀さんのメッセージを読むと、LGBTQコミュニティ内の男性中心主義への批判的な視座を持たれていることや、制作メンバーには山賀さん以外にもセクシュアルマイノリティ女性がいるらしいということが分かります。

 

ひとまずこの疑問・懸念は解消されたように思えますが、山賀さんは「制作に協力する」というお立場のようですし、「編著者というポジションに立つのはシスゲイ2人」という点は変わらないのかな、と思うと、やはりこの疑問・懸念がキレイに解消されたとは思えません。

 

疑問・懸念②歴史記述の「偏り」をどこまで無くせるのか?

で、このクラファンに対して疑問や懸念をいだいたぼくは、以下のようなツイートをしました*2

 

 

これらのツイートをしたところ、明治大学法学部教授・北海道大学名誉教授である鈴木賢さんからこのようなリプライがとんできました(一応、スクショ撮っておきました)

 

 

鈴木賢さんとはフォロワーでもフォロイーでもありませんし、面識すらありません。なので、急なタメ口(上から目線?)のリプライにちょっと動揺しました。で、URLを踏んで、鈴木賢さんの書かれた応援メッセージを拝読しました。

 

greenfunding.jp

 

雑に要約してしまうと、「日本のLGBTQの社会変革運動の歴史」への社会的関心が高まってきていること、歴史記述の難しさは多々あれど、歴史解釈は広く開かれているのであって、このクラファンはその最初の一歩であるのだということなどが書いてあります。

 

大まかには理解しますが、しかし、疑問は残ります。まず、歴史解釈は広く開かれていると書かれてありますが、それを書籍というかたちで制作・発行することは、現状、すべてのひとができることではないはずです。男性である/シスジェンダーである/都市に住んでいる/健康である……などの特権を持つひとに比べて、男性以外のジェンダーである/シスジェンダー以外のアイデンティティを持っている/地方に住んでいる/障害や病気があるひとは、比較的それがしづらいという不均衡な社会的状況があるのではないでしょうか。

 

とりわけLGBTQの社会運動においては、山賀さんが書いておられることとも関連しますが、ゲイ男性が中心を占拠してしまっているという批判がなされてきています。そんななか、編著者が都市に住むシスゲイ2人だけ……となると、先述したようなことを筆頭に、さまざな不均衡な社会的状況をスルーした歴史記述になってしまうのではないかという懸念があります。

 

歴史を編むということは大事な仕事だと思います。だからこそ、「最初の一歩だから編著者の偏りは大目に見てあげて」というのではなくて、最初の一歩だからこそ、できるだけ偏りが出ないように、編著者のSOGIEや社会的な立場性を重視する必要があったのではないでしょうか。

 

疑問・懸念③パートナーシップ・婚姻制度の話がどう扱われるのか?

以前にもブログに書いたことがありますが、少なくとも2010年代後半から、LGBTQの社会運動のアジェンダが、同性婚の成立や同性パートナーシップ制度の策定ばかりが取り上げられる傾向にあるように思っています。

 

nigenige110.hatenablog.jp

 

同性婚ができない差別的な現状を放置してよいとはまったく思いませんが、LGBTQの社会運動のアジェンダはもっと多様で、さまざまな当事者のニーズがあります。日本各地で行われている多種多様な運動をつぶさに見ていくと、そのことははっきり分かるはずです。

 

ところで、編著者のお一人である山縣さんは、このクラファンに「過去から未来へ 歴史の流れは、婚姻の平等の実現へ」というタイトルの文章を寄せておられます。

 

本家の『LGBTヒストリーブック』を読めば、多少の揺り戻しはあったとしても、歴史の大きな流れは婚姻の平等へと向かっていると確信が持てることでしょう。そして、日本もその例外ではなく、遅かれ早かれ、同性婚が実現される日が必ず来ることでしょう。そう思えるのは、日本においても、LGBTQの人権運動が着実にその歩みを前へ進めている実感があるからです。

 

greenfunding.jp

 

山縣さんは、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の、東京二次訴訟の原告のお一人でもあるそうで、同性婚ができない現状に対する問題意識があることが窺えます。その問題意識は共有しますが、一方で、先述したように、同性婚の成立ばかりがアジェンダとして取り上げられる傾向があるように思えることもあって、危惧もしています。

 

「いろんな運動があったけれど、婚姻の平等の実現はもうすぐだ! 頑張ろう!」みたいに雑に総括して、アジテーションする感じで締められたりしないか、ちょっぴり心配しています。

 

LGBTヒストリーブック日本運動史編(仮)』では、LGBTQの社会運動の多様なアジェンダや取り組み、さまざまな当事者のニーズが取り上げられることを願っています。すべてを漏らさず記述することは無理でしょうけれど、だからといって、どんな内容・構成・バランスになっても構わない、というわけでもないのではないでしょうか。

 

docs.google.com

 

書籍で取り上げてほしいエピソードや人物について投稿できるご意見フォームが設置されていますが、意見や批判を待つだけではなく、積極的に多様な立場のひとの意見や批判を聞きながら制作が進んでいってほしいなあと思います。

 

おわりに

軽く備忘録的にメモする程度に留めておこうと思って書き始めたのですが、4,000字を超えてしまいました。長々とすみません。ここまで読んでいただいた方には感謝します。より多くのひとと問題意識を共有できたら嬉しいなと思います。他にも疑問点や懸念点がある方がいらっしゃいましたら、コメントに書いてもらえるとありがたいです。

 

LGBTヒストリーブック日本運動史編(仮)』の制作は今後も続くでしょうし、クラファンのページで進捗報告もなされるようです。書籍が完成し、発行されたらぜひ読ませていただきたい、そしたらまた感想など書きたいと思っています。

 

最後に、重ねてになりますが、このブログに書いた疑問や懸念が、すべて杞憂に終わるといいなと思っています。

*1:似たようなタイトルの書籍として、永易至文さんの『「LGBT」ヒストリー』(2022年、緑風出版)がありますが、単著ですし、クラファンでお金を集めて発行された書籍でもありませんから、そこまで違和感はありませんでした。

*2:ぼくのツイートがきっかけかどうかは分かりませんが、このあと、クラファンのページに以下のような注釈が記載されました。「クラウドファンディングが成立した暁には、本書は、メインの編著である山縣真矢・後藤純一だけでなく、LGBTQコミュニティの様々なSOGIの方々と協働しながら制作していく予定です」。

濃厚接触者になって考えたこと【4年目のコロナ禍で】

 

コロナ禍になってからどれくらいの時間が経ったでしょう。3年くらい?

 

まだ初期の初期の頃、ぼくはWEBサイト制作の学校に通っていて、講師が「これからウィルスが心配だね」と言ったのに対して、「ウィルスって、パソコンのウィルスのことですよね?」と頓珍漢な質問をしてしまって叱られたのを覚えています。自分に危機感や感染症の知識が足りていなかっただけかもしれませんが、当時はまさかこんなに長引いて、感染者や死者がこんなにも出る大規模なパンデミックになってしまうとは思いもしませんでした。

 

そして、約3年が経ったいまです。ぼくは初めて濃厚接触者になりました。当然、もうすでに感染したというひともいるだろうし、濃厚接触者になったというひともいるでしょう。ぼくの周りにもたくさんいます。「今更、濃厚接触者になったからって、騒ぎすぎよ」と思われる方もいるかもしれませんが、自分にとって少なからずショッキングな出来事ではあったので、考えたことをまとめておきたいと思います。

 

とうとう来たか

すでに書いた通り、コロナ禍が始まってもう約3年が経っています。第1波、第2波、第3波……と続いて、いまは第8波と言われています。ぼくの周りでも、友人や家族がポツポツとコロナ陽性になっていきました。そのたびに、無事に快復してくれるだろうかと心配な気持ちと、感染予防をしっかりしようと気を引き締め直す思いと、それから政府の無策ぶりに怒りを覚えました。

 

そして、とうとうホントに自分の番が来てしまった(とはいっても、コロナ陽性者ではなくて濃厚接触者ですが)。そう思いました。2日前に会っていた人物からコロナ陽性の伝えを聞いたとき、すぐに実感が湧きました。とうとう来たか、と。

 

パニック、そして不安

2日前に会っていた人物の症状としては、咳や発熱、喉の痛み、身体のだるさなどがあるようでした。熱は39.5℃まで上がったそうです。年始だったこともあり、発熱外来はどこも満員で予約が全然取れなくて、だいぶ時間が経ってからようやく空きができたと連絡を受け、受診できたそう。

 

そんな話を聞くと、不安障害気味のうつ病パニック障害持ちのぼくとしては黙っていられません。すぐに「自分も陽性だったらどうしよう」「高熱が出たらどうしよう」「喉が痛いとパニック発作も出るんじゃないか」などと考えて、過度な不安を覚えてしまいました。頓服飲もう、頓服。

 

備えは大事。でも難しい

さて、この膨大な不安を解消するために、とりあえず粉ポカリやゼリーなどを備蓄しておこうと思いました。考えてみると、これまでそれなりに感染予防をしてきたつもりで、ワクチンも3回打っているというのに、食料の備蓄に関してはほぼ何もしていませんでした。急に高熱が出て、咳も出て、という状況になったら買い物にも行けないでしょう。迂闊でした。

 

備えは大事と言いますが、なかなか当事者意識を持つのは難しいな、と実感しました。平凡すぎる感想に、我が事ながら辟易としてしまいますが、いやホントにこれよ。濃厚接触者になって、すぐに実感が湧く程度には覚悟していた反面、備えがぜんぜん足りていなかった。この矛盾……。

 

おわりに

ここまで書いて、それから数日が過ぎました。ぼくは自宅待機の期間が終わり、「2日前に会っていた人物」は薬のおかげで症状も少し落ち着いてきたようです。ひとまず、良かった〜。

 

とはいえ、まだコロナ禍は終わっていません。不安を抱えすぎるとかえって体調によろしくないでしょうけれど、かといって何事も無かったかのように振る舞うこともできない。備えは万全にして、友人が感染したらできるだけサポートするようにして、政府の動向もチェックして、そうしてしっかりじっくり暮らしていきたいです。

【レビュー】元気のないマンガ集01〜04【ステマ】

 

新年明けましておめでとうございます。

 

2023年もよろしくお願いします。

 

……とはいったものの、昨年はこちらのブログ「にげにげ日記」においては、たった2つの記事しか公開できませんでした。もうひとつのブログ「元気のないブログ」は定期的に更新できていたのですが。

 

nigenige2020108.hatenadiary.jp

 

まとまった内容の記事を書く気にはならなくて、どちらかというと、だらだらと日常的なことを書くほうがやりやすかったのだろうと思います(こういう風に2つのブログを使い分けています)

 

でもせっかくだから、1年の振り返りはやっておきたい(昨年のうちに済ませておけというツッコミはお控えいただけると幸いです)。そこで、ふと思いつきました。一昨年の末から描き続けてきたマンガを読み返しながら、1年を振り返られたらいいのではないか、と。2022年の振り返りにもなるし、さらに、マンガをまとめてKindleで出版した「元気のないマンガ集」のステルスマーケティングにもなるではありませんか!これは良い!!

 

ということで、元気のないマンガ集01〜04のセルフレビューを行ってみたいと思います。自分で自分の作品を褒めたりする場面もあるかと思うので、そういうのがキモいと思うひとは早めに読むのをやめてくださいね。

 

元気のないマンガ集01

 

そもそもなぜマンガを描き始めたのかというと、「はじめに」を読んでもらえれば分かると思いますが、Amazonに対する挑戦・反抗でした。それが、いつの間にかマンガを描くこと自体が目的化していき、楽しくなっていきました。

 

第1作目である「01」は、見るからに絵が拙いです(いまだって粗ばっかり目立つ拙い絵ですが……)。でも、内容はわりと面白いし、いま読んでも共感できるな〜と思います。「生きるという牢獄」というタイトルのマンガとか、わかるわかるって感じ。最近描いてるマンガよりも真に迫ってるかもしれない。

 

それから「01」は、瀀さんのコラム「狐の先」と、八角さんとの座談会「『機界戦隊ゼンカイジャー』を振り返る」が収録されています。改めて読み返すと、どちらもすっごく面白いです。「02」以降は、時間が作れなかったせいでこのような取り組みはやっていなかったのですが、今後またやってみたいです。誰か書いてくれるひといないかなあ。

 

元気のないマンガ集02

 

第2作目である「02」では、1ページに2つのマンガを掲載できる縦長の形式だったものが、途中から1ページに1つのマンガを掲載できる形式に変わっています。もっといろいろ描き込みたいという理由と、Twitterにアップしたときに見やすいかなという理由でこういう形式にしました。

 

そのほかにも、拙いながらも着彩をしてみたりと、試行錯誤の跡が見られます。

 

後半では、不登校時代の話や高校時代の話など、過去を振り返ったようなマンガがいくつかありますが、こういうのも良いな、今後やっていきたいなと思いました。

 

元気のないマンガ集03

 

第3作目である「03」は、2022年の折り返し地点である6月頃に刊行したようです。ここまでのマンガを読み返してみると、めちゃくちゃ気分の波が激しかったことが分かります。2022年の頭に転職先を1日で辞め、体調を思いっきり崩し、それがかなり長引いていました。

 

それに伴って、マンガの制作頻度もめちゃくちゃ高いです。気分の波が創作を活性化しているのかもしれません。

 

また、「03」が刊行された頃は、当時同棲していた彼氏と話し合い、同棲を解消することを決めました。理由は、ぼくが会社を辞めて収入が無くなったこと。お互いの引っ越し先を探したり、引っ越しの段取りをしたりと、バタバタと慌ただしくしていました。忙しかったのと、同棲を解消するのがつらかったのもあって、ここらへんのことはほとんどマンガに描けていません。

 

元気のないマンガ集04

 

第4作目となると、多少は絵が上達しているように見えます。また、表紙をリニューアルしたり、登場人物紹介のページを入れてみたりと、工夫の跡も見られます。

 

「04」は、「はじめに」も「あとがき」も無いのでいつ刊行されたのか分かりづらいですが、Amazonのページを見ると2022年10月に刊行されたようですね。上半期は3つ刊行しているのに対して、下半期はたった1つ。明らかに制作ペースが落ちています。まあ、モチベーションは保ち続けるのは難しいし、仕方ないですね。

 

内容としては、障害者手帳をゲットしたり、抗うつ薬を変えてみたり、就労移行支援の利用を検討してみたりと、少しずつ次のステップへと動き始めている様子が窺えます。

 

おわりに

以上、元気のないマンガ集のセルフレビューでした。最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

刊行からわりと時間が経っているのもあって、客観的に見ることができたような気がします。試行錯誤の跡も見られて、頑張ってきたんだなあと自画自賛したくなりました。まだまだ読みづらい点、改善すべき点はあるかと思いますが、少しずつやっていきますので、お付き合いいただけると幸いです。

 

近々、第5作目となる「元気のないマンガ集05」を刊行予定です。就労移行支援の利用についてのマンガや、体調の変化についてのマンガなど内容盛りだくさんです。お楽しみにお待ちください。

 

そしてもしよろしければ、評価やレビューをつけてもらえると嬉しいです。今後の制作の励みになります。よろしくお願いいたします。

ディズニープラスで見られるLGBTQ関連作品10選【追記あり】

 

ディズニーの動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」に加入してからもうすぐ2年くらいが経ちます。当初はMCU(雑に言うと、いわゆるアメコミヒーローもの)のドラマを見るために加入したのですが、せっかくお金払ってるんだからいろいろ見てやろうと思って、あれこれ見てみました。意外と(?)LGBTQ関連作品も増えてきているので、それらの作品も見てみました。

 

disneyplus.disney.co.jp

 

まだまだ見るべき作品はあると思いますが、一旦ここらで、ぼくがこれまでに見たLGBTQ関連作品(LGBTQが主題となっているもの、あるいは、レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーのキャラクターが登場するものなど)の中からオススメのものをピックアップしてご紹介したいと思います。

 

(注:最大限配慮したつもりですが、どうしてもネタバレを含んでしまっている箇所が一部あります。ご容赦ください。)

 

 

1.殻を破る

ピクサー作品としては初の、ゲイカップルが主役の短編アニメーション。10分程度の短編作品ですが、カミングアウトの困難さがしっかり描かれています。しかし、せっかく素晴らしい作品を作ったのだから、ディズニーには「これはゲイカップルが主役の作品ですよ」とキャプションなどにしっかり明記し、プロモーションしてほしいものです。

 

殻を破るを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

 

www.huffingtonpost.jp

 

2.リトル・プリン(セ)ス

こちらも10分程度の短編映画です。バレエとピンク色のものが好きなガブリエルと、マッチョな感じの父親のもとで育ったロブの友情のお話。ガブリエルのアイデンティティについて明確な言及はされていませんが、「普通とは何なのか」とジェンダー規範を問い直すような作品になっています。

 

リトル・プリン(セ)スを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

 

3.ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル

2006年に放送されたミュージカル映画ハイスクール・ミュージカル」のリメイクドラマ。「ハイスクール・ミュージカル」が撮影された高校で、同作を題材にしたミュージカル作品を作ろう!というお話。2022年12月現在、シーズン3まで配信されており、シーズン4の製作も決定しています。

 

ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカルを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

 

ブレイク前のオリヴィア・ロドリゴが主演している点や、楽曲の良さ、原作へのリスペクト、リプレゼンテーションなど、特筆すべき点はいくつもあるのですが、本記事で注目したいのはLGBTQのキャラクターやキャストについて。

 

原作となっている「ハイスクール・ミュージカル」では、ライアンというキャラクターがゲイであることを、同シリーズの監督ケニー・オルテガが発言しています。しかし、劇中ではそのような描写はありませんでした。

 

ケニーはライアンがゲイであることを、2006年から2008年まで続いたシリーズの中で明かさなかった理由について、「僕が懸念していたのは、ファミリーや子供たち向けだったということでね」と、『ハイスクール・ミュージカル』がファミリー向けの映画であったことをあげ、「ディズニーにはまだその一線を超える準備ができていないんじゃないか、まだその領域に進む準備ができていないんじゃないかって思ったんだ」と、2020年の現在ほどLGBTQ+の人々に世間がそれほど寛容ではなかった時代に作品内でカミングアウトを扱うことのハードルの高さを振り返った。

 

front-row.jp

 

その反省を踏まえてなのか、リメイク作品である「ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル」シリーズでは、シーズン1からゲイのキャラクターが主要キャラクターの1人として登場しています。さらに、ここからはネタバレになってしまいますが、シーズンが進むにつれて、クィアであることをカミングアウトするキャラクターやキャストが増えていきます。

 

それから、これまたネタバレになってしまいますが、ディズニー作品としては初めて、同性愛のキャラクターのためのラブソングが作られた点にもご注目ください。

 

youtu.be

 

front-row.jp

 

4.クラッシュ 真実の愛

レズビアンティーンネイジャーが主役のラブロマンス映画。海外ではhuluで配信されているみたいですが、日本ではDisney+でのみ配信されています(2022年12月現在)

 

クラッシュ 真実の愛を視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

アートが好きなレズビアンの主人公が、陸上部に所属するある女性に惹かれて、陸上部に入部するというお話。主人公だけでなく、複数のレズビアンバイセクシュアル女性が登場することがとても良いレズビアンバイセクシュアル女性の中にももちろん多様性があるので)。また、主人公の描くアート作品を含め、劇中のアートワークも素晴らしいです。

 

レズビアンバイセクシュアルの表象がまだまだ少ない中で、このような作品があることはとても意義深いと思うのですが、しかし、「殻を破る」と同様、キャプションにはこれがレズビアンが主役の作品であることは言及されておらず、またそのようなプロモーションもされていません。ディズニー、しっかりしてくれ!!!

 

5.バズ・ライトイヤー

大人気アニメーション「トイ・ストーリー」シリーズのキャラクター、バズ・ライトイヤーの単独作品です。個人的にバズは「トイ・ストーリー」シリーズの中でもお気に入りのキャラクターなので、彼が活躍する映画が制作されてとても嬉しいです。

 

バズ・ライトイヤーを視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

さて、スペースレンジャーであるバズの相方・ホーソーンは、同性のパートナー(女性)と結婚します。ホーソーンとそのパートナーとの間にはキスシーンがあるのですが、実はこれ、一度はお蔵入りになっていたそう。

 

このレズビアンカップルのラブシーンは、制作過程において一度カットされたものの、公開まで4カ月を切ったつい先日、本編に収録することが決定。

その裏には、昨今、関心を集めている米フロリダ州性的指向の議論を禁止する法案、通称「ゲイと言ってはいけない法案(Don't Say Gay bill)」の可決に対するディズニーの対応の不十分さにスタジオ内部からも反発の声が高まったことが影響しているという。

 

front-row.jp

 

また、ピクサーの従業員たちが連名で発表した声明には、「ピクサーのクリエイティブチームやエグゼクティブたちがどんなに反対しようとも、同性キャラクター同士が必要以上に親密そうにする描写は、これまでいつもディズニーの要請によりカットされてきました」とあり、大きな問題となっています。マジ何なん、ディズニー。今後も、ディズニーの姿勢は注視されるでしょう。

 

6.ファイアー・アイランド

ニューヨーク州ロングアイランドにある、実在する島「ファイアー・アイランド」は、ゲイに人気のリゾート地だそう。そんな島を舞台にしたこの青春ゲイラブコメ映画では、ゲイコミュニティ内の人種差別やモテ/非モテの問題などが多層的に描かれています。

 

ファイアー・アイランドを視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

日本で暮らす日本人のゲイであるぼくとしては、人種という点でのマイノリティ性を感じることはこれまでありませんでしたが、この作品を見て、欧米(のゲイコミュニティ)においてアジア系はマイノリティなのだということをこれでもかと突きつけられ、見ていてとても辛かったです。もちろん日本においては、人種的にはマジョリティになるわけなので、その点も考えていかなければならないわけですが。

 

youtu.be

 

7.ベイマックス

2014年に公開されて話題となったディズニー映画「ベイマックス」のドラマシリーズで、約10分のお話が全6エピソード。サラッと気楽に見れちゃいます。

 

ベイマックス!を視聴 | Disney+(ディズニープラス)

 

それぞれのエピソードで困ってるひとをベイマックスが助けるのですが、生理に悩む少女を助けるエピソードでは、生理用品売り場にトランスカラーの服を着た(おそらく)トランス男性がいたり、あるエピソードの主人公が同性愛者だったりします。

 

LGBTQに関連するトピックを扱うことを示唆しておきながら、実際にはまともに取り扱わずに、視聴者の耳目を集めることだけが目的のマーケティング手法を批判する言葉として「クィア・ベイティング」というものがありますが、一方で、「ベイマックス!」のように、日常風景の中にサラッと、でも明示的に、LGBTQのキャラクターを登場させるというのも意義深いなあと思わされました。

 

8.POSE/ポーズ

数々の賞を受賞した有名な作品です。以前はNetflixなどで配信されていましたが、2022年12月現在、無料で見放題なのはディズニープラスだけのようです。最終シーズンであるシーズン3まで配信されています。「glee*1」や「The PROM」などを手掛けたライアン・マーフィーなどが制作。

 

POSE/ポーズを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

 

1980年代、エイズの感染が深刻化していた時代のニューヨークを舞台に、ファッションやパフォーマンスの腕を競う「ボール」というコンテストを主題にしたクィアたちによる群像劇で、有色人種のトランスジェンダー女性たちが物語の中核を担っていること、それらのトランスジェンダー女性たちを当事者が演じていることなどは注目すべきところです。

 

また、ショーン・フェイ著・高井ゆとり訳『トランスジェンダー問題』でも触れられている、トランスジェンダーと健康、セックスワーク、監獄などの問題にも触れられており、「トランスジェンダー問題」に言及したいひとはぜひこの作品を見てほしいです。

 

 

ほかにも特筆すべきところはたくさんあるのですが、エミー賞ドラマシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされたMJ・ロドリゲスの存在感がすごいということだけ、ひとまず書いておきます。まだ見ていない方は、ぜひ見てください!

 

9.Love,サイモン 17歳の告白

こちらもわりと有名な作品かなと思います。ゲイであることをクローズドにしている高校生のサイモンが主人公の、カミングアウトや友情を描いた青春映画。ある日、高校の掲示板に、自分がゲイであることを書き込む人物(ブルーというハンドルネームを使っている)が現れて、サイモンはブルーが誰なのか探し始める……というお話。ドキドキする〜!

 

Love, サイモン 17歳の告白を視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

スピンオフ作品も作られており、その名も「Love,ヴィクター」。こちらはまだ未視聴なのですが、たくさんのクィアな人たちが登場するようで、近々観たいなと思っています。

 

10.エターナルズ

アベンジャーズで有名な「MCUマーベル・シネマティック・ユニバース)」の作品群の1つ。「ノマドランド」でアジア人として初めてゴールデングローブ賞監督賞を受賞したクロエ・ジャオが監督しています。

 

エターナルズを視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

MCU作品といえば、当初は白人で異性愛で男性のヒーローばかりが登場してきていましたが、シリーズが展開していくにつれて、次第に、女性のヒーローや非白人のヒーローが続々と登場・活躍するようになり、現実にある多様性を反映させていると言えます*2

 

このような展開に「ポリコレだ」と一面的な反応をするひとも少なくないですが、先ほど書いた通り、これは現実にある多様性を反映させただけなのです。多様なバックグラウンドを持った視聴者のことを考えれば、このような展開はマーケティングとして妥当であるばかりか、社会的にも望ましいものだとぼくは思います。

 

前置きが長くなってしまいましたが、「エターナルズ」では多様なヒーローが登場します。女性のヒーロー、聴覚に障害があるヒーロー、ゲイのヒーロー、アジア系のヒーロー、パキスタン系のヒーローなどなど。多様なバックグラウンドを持ったヒーローたちのやりとりと、クロエ・ジャオ監督が撮る美しい風景、そしてかっこいいアクションをぜひ堪能していただきたいです。

 

youtu.be

 

おわりに

かなり長くなってしまいましたが、以上、2022年12月時点で、ディズニープラスで見られるオススメのLGBTQ関連作品10選でした。

 

先月のニュースでは、ディズニープラスの会員数がNetflixのそれを上回ったと伝えられました。作品の多様性やラディカルさという点でいえば、Netflixと比べると、ディズニープラスで見られる作品はまだまだ遅れを取っていると言わざるを得ませんが、ディズニーのコンテンツ力にそれらが合わさったらと考えると、今後の展開が楽しみです。

 

gigazine.net

 

この記事でご紹介した作品の中からどれか気になったものがあれば、ぜひ見てみてほしいです。また、「ディズニープラスだったら、この作品も良いよ!」などオススメのLGBTQ関連作品があればコメントに書き込んでもらえると幸いです。よろしくお願いします。

 

 

追記:ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界

(更新:2022年12月28日)

この記事を公開した日(2022年12月24日)の前日にディズニープラスで配信開始された映画「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」に、同性に恋するティーンが描かれていたので、こちらもご紹介します。

 

ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界を視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

伝説の探検家である父を持つ農夫サーチャー・クレイドは、妻と息子と3人で暮らしています。あるとき、世界の危機を知らされ、親子3世代で奇妙な世界を冒険することになって——というあらすじです。この主人公の息子イーサンが、同性の友人に恋をしていて、ロマンスシーンも描かれています。

 

ゲイなのかバイセクシュアルなのか、具体的なワードは出てきませんし、同性愛に対する偏見や差別も描かれず(両親も周りの友人らも当然のように受け止めている)、カミングアウトの葛藤もないようです。どちらかというとイーサンのZ世代的な描写に重きが置かれています。このバランス感覚が見事だなと思いました。

 

物語としても、ネタバレになるので詳細は書けませんが、終盤、現代的な社会問題に通ずるテーマが前面に出てきて、とても興味深かったです。

 

www.youtube.com

 

追記:ディズニーのピンクウォッシュ

(更新:2024年4月14日)

この記事はあくまで「ディズニープラスで見られるLGBTQ関連作品」を紹介するものであり、「ディズニーはLGBTQ表象をしっかりやっている」「ディズニーはLGBTQフレンドリーで先進的な企業だ」などと主張したいわけではなかったのですが、世界的な情勢を見て、はっきりその点について言及すべきだと思ったので、追記します。

 

現在、イスラエルが行なっているパレスチナでの虐殺について、ディズニーはイスラエルに対してのみ200万ドルの寄付を行ったとして、批判されています。国際法に違反するイスラエルに対するボイコットなどの運動=BDS運動では、GoogleAmazonと並び、ディズニーに対して圧力をかけていくことが求められています。マイノリティの権利獲得や反差別、人権保障などの観点からLGBTQの表象に力を入れていくのであれば、パレスチナでの虐殺についても問題視しないと辻褄が合いません。

 

人権侵害や虐殺などをLGBTQフレンドリーのイメージで覆い隠す戦略のことを「ピンクウォッシュ」といいますが、ディズニーが企業として行なっていることもピンクウォッシュとして批判されて然るべきです。

 

www.huffingtonpost.jp

 

2024年4月現在、わたしはディズニープラスには加入しておらず、最近公開されたディズニー/ピクサー/マーベルなどの作品をチェックできていません。見たい気持ちは山々ですが、ディズニーのピンクウォッシュは看過できません。

*1:glee」もディズニープラスで見ることができます。LGBTQのキャラクターが多数登場する学園ミュージカル作品で、ぼくの青春です。

*2:MCU作品でLGBTQのキャラクターが明示的に描かれているものでいうと、ほかに「ホークアイ」や「ソー:ラブ&サンダー」などがあります。

変態で、なまけもので、周りの目を気にしなくて、ときに犯罪者にもなるわたしたちみんなの運動へ向けて

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偏見や間違った認識ををなくすために

まず、この社会には偏見が溢れている。さまざまなマイノリティに対するさまざまな偏見が蔓延っている。多くのひとは、偏見は良くないと思っていながら、それを修正する機会に恵まれなかったり、自らそういった機会を得ようとはしなかったり、あるいは公正世界仮説や特定のイデオロギーにもとづいて偏見の存在を指摘するひとを逆に非難・攻撃したりする。
 
偏見を向けられる当事者だったり、偏見それ自体や偏見から生じる差別、あるいは歴史的・文化的につくられ、維持されている差別を無くしたいと思っているひとびと(支援者やアライなどと呼ばれたりするひとも含まれる)は、このような社会を変えようとして、さまざまなアクションを行ったり行わなかったりする。
 
さまざまなアクションのうち、ひとつは、差別とは偏見や誤解や無知から生じるものであるという考えから、マイノリティの現在における典型的なあり方(”リアル”)を表象・喧伝していくことで、差別や偏見を解消していこうというものだ。
 
例えば、「LGBTは変態だ」という偏見に対して、「そうじゃない。あなたの周りに”フツーに”暮らしている」と言ってみたり、「怠けているから貧困になるんだ」という偏見に対して、「そうじゃない。一生懸命働いているのに、社会構造的な問題によって貧困状態になり得るのだ」と言ってみたり、おもにトイレ利用の文脈で「トランスジェンダーは犯罪者だ」という間違った認識に対して、「そうじゃない。当事者たちは周りの目を気にしながら暮らしている」と言ってみたりする。
 
そのようなアクションによって、ある程度の偏見や間違った認識が解消され、当事者の生きづらさの軽減に繋がっていると思う。辛抱強さが求められる地道な活動には、頭が下がる思いだ。
 

表象のもつパワーと功罪

一方で、ここからが本題なのだが、先述したようなマイノリティの現在における典型的なあり方が表象・喧伝されることで逆効果もまた起こるのではないだろうか。それは、先の例でいうと、”フツーに”暮らしていないLGBTのひとびとの存在が見えづらくなったり、支援の対象になりづらくなったりする。あるいは、だらだらまったり暮らしている貧困状態にあるひとの存在が見えづらくなったり、支援の対象になりづらくなったりする。または、トランスジェンダーは周りの目を気にしながら暮らさなきゃいけないようなムードや規範のようなものが出来てしまう。あるいは、犯罪者の人権だったら剥奪してしまってもいいような社会通念が出来てしまいかねない。
 
それは、例えば、不登校に対するネガティブなイメージをはねのけるために作られた「明るい登校拒否児」というストーリーが、今度は不登校の当事者を苦しめるようになっているという指摘とも符号するだろう。
 
たしかに、明るく元気な人びとの姿や彼らのその後のサクセス・ストーリーは、より多くの人が「学校に行かなくてもOK」と思えることにつながるかもしれない。「登校拒否? 病気でしょ」、「ずる休みは非行の始まりだよ」、「不登校はねー、あの将来性のなさがどうも……」と思ってる人でも、自信に満ちた成功者の姿を見れば、考えを変えてくれるかもしれない。でも、そういうイメージを作るために、切り捨てられていくものがある。汚いもの、臭いもの、暗いものは、抜き取られていく。貴戸理恵常野雄次郎不登校、選んだわけじゃないんだぜ!』p.139)
Aという偏見に対して、「そうじゃない!Bがリアルなんだ!」という対抗言説をぶつけると、Aのひとや、AでもBでもないひとの存在が見えづらくなってしまったり、「ここまでは仲間だけど、ここから先は仲間じゃないよ」と線引きしてしまうことに繋がってしまったりする可能性がある、ということを考えなければいけない。
 
私たちは、”フツーに”暮らしているLGBTや周りの目を気にしながら暮らしているトランスジェンダーのみに権利を保障すればいいのではないし、一生懸命働いている貧困状態にあるひとのみを支援すればいいわけではない。変態のLGBTにも、なまけものの貧困状態にあるひとにも、特に周りの目を気にせず暮らしているトランスジェンダーにも、あるいはあらゆる犯罪者にも、さまざまな権利の保障が必要であり、支援を受ける権利があり、そのひとたちのジェンダーアイデンティティやセクシュアル・オリエンテーションは尊重されるべきだと言わなきゃいけない。
 
そして同時に、偏見や差別を指摘するときの言い方には慎重でなければならない。誰かを不可視化してしまったり、無為な分断を生まないように。
 

視点を変えてみる

と、ここまで考えて、一息ついて、アレ? と思う。わたしはどの立場で、誰に対してこれを書いているのだろう。これまで書いてきたことは、支援者やアライと呼ばれるようなひとたちを含め、より多くのひとに対して「こうしていきましょう」と呼びかけてみるようなものになっていると思われるが、そうではなくて、社会から迫害され、傷つき、怒りや悲しみを抱き、プロテストしたりするような側の立場に寄って、このことについて書くことも必要なんじゃないか。
 
というか、わたしのマイノリティとしての立場性が、そうしろと言っているような気がしている。中立ぶってんじゃねーぞ、と。冷静を装ってんじゃねーぞ、と。もっと怒りを爆発させろ、と。じゃあ、ちょっと視点を書いてもうちょっと書いてみるか。
 
まず、この社会には偏見が溢れている。それに対して、マイノリティたちはさまざまな形で反論したり、茶化したり、偏見や間違った見方を過度に演出して見せたりと、いろいろなかたちで対抗したりしなかったりする。生き方も考え方もさまざまだ。そのすべてが称揚されるわけではないかもしれないし、偏見を持つひとたちの側から揚げ足取りの材料にされることだってあるわけだが、それでもそのような表現や生き方は多様であっていいと思うし、そうあるべきだとも思う。
 
ハッピーでキラキラしたマイノリティ”だけ”に権利を保障するのではなくて、ときに憎たらしく、生意気で、変態で、なまけもので、マジョリティと同様に犯罪を犯してしまうひともいる、そんなマイノリティにも権利を保障する。いや、むしろそういうマイノリティの権利を保障してこそ、ではないだろうか。リアリティのないキラキラ物語にはうんざりだ。
 
……と、なんかフツーに当たり前のことを長々と書いてしまっているだけな気がして、恥ずかしくなってきた。けれど、現実に起きている事象を見てみると、モデルマイノリティと呼ばれるような、いわゆるマジョリティに迎合的なマイノリティだったり「社会に悪影響を及ばさない」マイノリティのあり方”だけ”が大きく取り上げられてしまっているような気がしてならないのだ。だから、フツーに当たり前のことかもしれないけれど、何度でも何度でも繰り返し強く言っていきたい。
 
変態のLGBTにも権利を保障しろ!
 
なまけものの貧困状態にあるひとにも支援を!
 
特に周りの目を気にせず暮らしているトランスジェンダーがいたとして何が悪い!
 
犯罪者にだって人権や尊厳がある!