にげにげ日記

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(元)不登校ゲイの思索

精神障害者は障害者割引の対象外?!——精神障害者と自由に移動する権利【追記あり】

電車のつり革


さまざまな問題が山積みの日本社会ですが、とりあえず自分にとって身近な問題や、そのとき話題になっている問題については、できる限り情報収集したり実際に確認して情報をまとめたり意見表明したりしたいと思いながらぼちぼち過ごしています。

 

2024年2月下旬、わたしがよく見ているSNSで話題に挙がっていたもののひとつが、鉄道の障害者割引についてでした。この問題について、劇作家の相馬杜宇さんという方が、change.orgにてオンライン署名を集めておられます。

 

www.change.org

 

皆さんは、障がい者が鉄道を使って移動する際、「介護者が同伴」または「単独の場合は101キロ以上の移動」でないと、障がい者割引が適用されないというルールがあることをご存知でしょうか。
このルールはJRや小田急電鉄など、多くの鉄道会社が決めているものです。しかしこのルール、実は旧国鉄時代に定められたとても古いもので、バリアフリー化が進んで障がい者が1人でも移動できる今の時代にはそぐわない制限になっています。
しかも、鉄道会社自体もなぜ101キロというとても長い乗車区間での線引きなのか、なぜこのルールが残っているのか、わからないまま前例を踏襲しているという報道も出ています。

(署名ページより引用)

 

国土交通大臣や各鉄道会社に宛てた署名で、以下のことを要望として挙げられています。

 

障がい者が鉄道を単独利用する場合、乗車距離が101キロ以上などの一定の距離を超えないと割引が適用されない仕組みを見直して欲しい。
・なぜこの「101キロ以上」などのルールが存在するか説明を求める。
精神障害者、難病の方など、他の障害者への割引がない理由の説明を求める。
バリアフリー時代に合わせた制度への変更を要求する。

 

相馬杜宇さんが、身体障害者として体験したことや疑問に思ったことを署名ページに詳しく書いておられるので、わたしは精神障害者の立場で体験したことや疑問に思ったことを補足的にまとめておこうかなと思い、この記事を書いています。

 

精神障害者は割引対象外?

まず、先ほど引用した文章の冒頭部分をもう一度引用します。

 

皆さんは、障がい者が鉄道を使って移動する際、「介護者が同伴」または「単独の場合は101キロ以上の移動」でないと、障がい者割引が適用されないというルールがあることをご存知でしょうか。

 

ここでいう「障がい者」は、身体障害者知的障害者のみを指しており、JRや小田急電鉄など多くの鉄道会社で、精神障害者が利用できる障害者割引はありません。いわゆる普通料金で乗車することになります。どうして精神障害者だけが割引対象外になっているのかという疑問については、署名ページを読む限りでは、国鉄時代のルールが約70年経ったいまでもそのまま適用されているから……という形式的な回答しか得られていないみたいです。

 

www.jreast.co.jp

 

不平等と混乱を生んでいる現状

精神障害者が利用できる鉄道の障害者割引としては、署名ページでも取り上げられているように、都営地下鉄西日本鉄道名古屋市などの取り組みが挙げられます。わたしは東京都に住んでいるので都営地下鉄を利用することがあります。障害者手帳を窓口に持って行き、「精神障害者都営交通乗車証」というものを発行してもらいます。2年ごとに更新の手続きをするために指定の駅の窓口まで出向かなければいけなかったり、モバイルPASMOスマホを改札にかざして乗車料金を払えるアプリ)に対応していなかったりと不満に思う点や改善点はありますが、それでもありがたい制度だなと思っています。

 

一方で、住んでいる地域や利用する路線(鉄道会社)によって障害者割引を利用できたりできなかったりするために、不平等を生んでいるとも言えます。また、JR東日本区間ではモバイルPASMOモバイルSuicaで乗車料金を支払って、都営地下鉄に乗り換える際は先述の「精神障害者都営交通乗車証」をカバンから取り出して改札にかざして……というように手数が増え、混乱してしまうときがあります。よく注意しておかないと、都営地下鉄の改札でスマホをかざしてしまい、普通料金を支払ってしまうのです。

 

www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp

 

責任のなすりつけ合い

このような不平等や混乱を避けるためにもルールを統一してほしいところですが、国土交通省としては、各種割引については各鉄道会社の判断に委ねるという姿勢のよう。その一方で、では鉄道会社の側はどう考えているのかというと、TBSが行った取材によれば、JR東日本の担当者が以下のように答えています。

 

身体障害者割引をはじめとする公共割引は、国の社会福祉政策で行われるべきものと考えております。国鉄の制度を継承したものは、引継ぎ継続して実施いたしておりますが、割引の拡大については、ひいては他のお客さまのご負担増にもつながるため、現在のところ考えておりません」

 

newsdig.tbs.co.jp

 

約70年前の国鉄時代のルールがそのまま継承されていること、ルールを変えて割引の適用範囲を拡大すると「他のお客さまのご負担増にもつながる」=乗車料金が上がるために、現状を維持したいという考えが確認できます。いわば、国と企業で責任をなすりつけ合っているような状況です。

 

精神障害者と移動する権利

そもそも精神障害者は、その障害があるためにフルタイム就労が難しかったり、勤怠が安定しないからという理由で障害者雇用でも採用されづらかったり、障害者雇用で採用されたとしても低賃金だったり、時給200円ほどの工賃で軽作業をするしか選択肢がなかったり……という経済状況があります。障害年金を受給しているひともいますが、一人暮らしをするのに十分な金額はなかなかもらえません。また、通院や投薬治療のために定期的な出費がかさんだり、体調が安定しないために自炊ができず、コンビニのお弁当やデリバリーで食事をすることになり食費が膨らんだりもします。

 

nigenige110.hatenablog.jp

 

このような状況を鑑みると、古いルールを見直し、精神障害者にも障害者割引を適用するのが望ましいとわたしは考えますが、国土交通省も鉄道会社も健常者の顔色をうかがってルールを変更できないでいます。これは移動権(交通権)をめぐる問題として広く共有されるべきではないでしょうか。

 

 移動権(交通権)とは、人が自由に移動する権利のこと。日本国憲法の第22条の「居住・移転および職業選択の自由」、第25条の「生存権」、第13条の「幸福追求権」などと関連した人権を集合した権利として定義されることがある。公共交通の利用をめぐって関連訴訟が起こされてきた経緯もあり、交通権と呼ばれることも多い。

 

project.nikkeibp.co.jp

 

地方の鉄道やバスの減便や廃止が問題になっている昨今ですが、これを移動する権利の侵害として捉えると、鉄道の障害者割引のあり方もまた議論の対象になるべきだと考えられます。通院するにも、通勤するにも、就職活動をするにも、友達や家族に会うにも、公共交通機関を利用して移動をしなければいけない場合は多々あります。移動する権利がしっかり保障されるためにも、鉄道の障害者割引についての見直しは早急になされなくてはならないと思います。

 

おわりに

かなり長くなってしまいましたが、以上が精神障害者のひとりとしての補足です。最後にオンライン署名のURLをもう一度貼っておきます。問題意識を持たれた方は、ぜひ署名をしたりコメントを書いたりSNSで拡散したり友達とこのことについて話したりいろいろしてみてほしいです。

 

www.change.org

 

追記:2025年4月より精神障害者も割引対象に。ただし「謎ルール」は残ったまま。

来年4月より、JRなどで障害者割引の対象に精神障害者も含まれるようになりました。

 

www3.nhk.or.jp

 

ようやく身体障害者知的障害者と同じ割引制度を精神障害者も利用できるようになりましたが、「介助者が同伴していないといけない」「単独利用の場合、100km以上の移動でないと対象外」など、すでに前述の署名ページで問題提起されている「謎ルール」もそのまま引き継がれてしまっており、実際、どれくらいの当事者がこの制度の恩恵を受けられるのか疑問です。国鉄時代に制定されたまま見直されずにいる「謎ルール」を撤廃し、単独利用で99km以下での移動でも割引の対象になるようにしてほしいです。

 

ちなみに、ざっと調べたところでは、東京から熱海まで100kmちょい。来年4月あたりに、精神障害者で集まって、熱海まで日帰りの慰安旅行でもやってみますか? 熱海は干物が有名らしいですよ。JR東海道線を利用すると、往復2,000円くらいで行けるみたいです。ただし、片道2時間弱かかります。パニック障害がある自分には、長距離の電車移動は厳しいですね……。