にげにげ日記

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(元)不登校ゲイの思索

「理解のある彼くん」問題が突き刺さった、生きづらさ抱えるゲイ

いまのパートナーと付き合う前は、長く続いても1ヶ月という交際がしばらく続いて、まだ若かったから仕方のないことだったかしらとも思うのだが、翻って、いまのパートナーとはどうしてこうも長く続いているのだろうかと不思議に思うことがある。もうすぐ3回目の記念日。
 
この間、ぼくの側に大きな変化はなく、相変わらず生きづらい性格と身体で生きている。だったら長続きの理由はパートナーの側にあるのではないか。パートナーの懐の深さのおかげなのではないか。そういう風に考えていた。でも、この頃、そういう考え方も一種の典型なのだと気づかされた。
 

「理解のある彼くん」物語

ネットでたまたま見つけたZINE「呪詛」。そのVol.3には、「「理解のある彼くん」について」というタイトルの往復書簡が所収されている。内容を端的に要約すると、生きづらさを抱えた女性がより良い生き方を模索するお話の中で、その女性にとって救いになるメシアのような存在(=「理解のある彼くん」)が現れがちなのはどうしてなのか、と問うている。
 

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ゆとり世代フェミニズムさんのZINE「呪詛」とっても面白いのでオススメです。
 
ぼくが好きなエッセイ漫画『私のおっとり旦那』も、「理解のある彼くん」的なストーリーになっていると言える(第1巻の描き下ろし漫画で特に)し、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』で有名な永田カビ氏もまた、生きづらい系のエッセイ漫画にパートナーが現れて救われるという典型があることを指摘している。
 
(以前には「シンデレラ・コンプレックス」という言葉があったが、それとどことなく似ている)

 

 

自己効力感の問題?

これがさっき書いた「一種の典型」だ。ぼくもこの物語をなぞってしまっていた。たしかにパートナーは素敵なひとだと思っているが、いまのぼくやぼくらの関係が、すべて彼のおかげで成り立っているという風に考えるのはおかしい。おかしいっていうか、ぼく、自己効力感低すぎ?
 
でも、実感として、やっぱりぼくの側でこれといった変化はないのだ。これまでの恋愛経験から多少は得たものがあったのかもしれないけれど、スキルやテクニックとして活きているとは到底思えない。だとすれば、たまたまぼくらの相性が良かっただけなのだろうか。
 
あるいは、「恋愛経験を積んで、スキルやテクニックを獲得しなければ、良いパートナーシップを築くことはできない」という考え自体が間違っていたのかもしれない。だって周りを見ていれば、初めて付き合ったひとと長く付き合ったり、そのまま結婚したりしているひとだっているじゃないか。
 

ケア能力と関係性を維持するコスト

また、往復書簡の中では、「理解のある彼くん」によって救われるという物語が存在するのに対して、実際には、社会的・文化的にケア能力を求められがちな女性のほうがケア能力が高い傾向にあり、男女間の関係性を維持するコストを支払っているのはたいてい女性なんじゃないか、女性はいつも男性の尻拭いをさせられているんじゃないかと指摘している。
 
これはホントにそうで、男性であるぼくも反省しなきゃいけないところだ。ただ、その一方で、ぼくらは男性同士のカップルであり、ケア役割を担う/担ってもらうといった非対称な性役割を負わされているわけではない。その点についてどう考えればいいだろうかと、ZINEを読みながら思った。
 
関係性を維持するコストを支払うための、ケア能力を身につける機会がなかった(免除されてきてしまった)から、男性同士のカップルは別れやすい、と言えるだろうか。逆に、以前にも参照したことがあるが、とある調査結果の分析によると、女性より男性のほうが関係性のクオリティへの期待が低いので、女性同士のカップルや異性愛カップルよりも男性同士のカップルのほうが長続きしやすい、と言っているひともいる。
 
 
結局、どちらが確からしいのだろうか。ごめんなさい、答えは出ていません。
 

4年目のパートナーシップに向けて

「理解のある彼くん」問題は、当人の自己効力感の低さだけが問題ではないような気がしている。生きづらさを当人がひとりで抱え込まなければいけなくなっている、いわゆる自己責任論の問題や、男女の賃金格差をはじめとした下部構造の問題も影響しているんじゃないだろうか。
 
そして、その実、性役割としてケア能力が女性にばかり期待されているという問題があって、「理解のある彼くん」問題はそれを隠蔽してしまいがち。そして、男性同士のカップルはケア能力をどのように駆使しているのだろうか。この点については、下記のブログ記事でもちょっと書いたけれど、今後も気にかけていきたい。
 
 
さて、これから4年目のパートナーシップが始まる。今後もより良い関係性を模索していきたい。